(更新 2015.10.21)

満点『パリ、テキサス』男の中の男、ウォルトに注目!

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8月1日からdTVで見られるようになったので、久しぶりに見ました。名作です。まさにロードムービーの金字塔!

あらすじ
と言うかほとんど内容

アメリカ、テキサス。荒野をさまよう一人の男がいた。男の名はトラヴィス。彼は過去から逃れるように、4年もの間、旅にでていた。

トラヴィスの子、名前はハンター。もうすぐ8歳になる男の子。アメリカのロサンゼルスでトラヴィスの弟ウォルトとその妻アンに育てられていた。

弟夫婦を介し、トラヴィスとハンターは再会し、二人の距離は少しずつ縮まっていく。そして、トラヴィスの元妻であり、ハンターの母親である、ジェーンを探しに2人は旅立つ。

1984年のカンヌ映画祭、最高の賞であるパルムドール受賞。今なお輝き続ける珠玉の名作。

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名前のある人物は、たった5人しかいません。トラヴィス、ウォルト、アン、ハンター、ジェーンです。

言わずと知れた名作ですし、良いと思うところは同じようなところだと思うのでここでは弟ウォルトに注目して書いてみようと思います(弟夫婦がこれまた良い人達なんです)。感想、ネタバレを含んだ長文となってます。書き起こした英文や訳した文は間違ってたらごめんなさい。
 

You can talk to me
話すことができるよ

(23分頃から)
ANY TIME Full menu(いつでも全てのメニューが注文できる)レストランで、弟ウォルトがトラヴィスに話しかけます。

「何が起こったのかは聞かない」
「分かることと違うだろ?」
「でも 僕は君の弟だよ」
「話してくれよ」

↑You can talk to meって言ってます。
そして、

「一人で話し疲れたよ」

↑そりゃそうですよね。ロサンゼルスからテキサスまで飛行機とレンタカーを使ってトラヴィスを迎えに来て、4年ぶりに再会してから、ずっとトラヴィスに優しく語りかけているのに、トラヴィスは一言もしゃべらないんです。そりゃー疲れますよ。でも、それでも弟ウォルトはトラヴィスに優しく話しかけるんです。
私のつたない英語力ですが、弟ウォルトは「I don't know what kind of your trouble, I don't know what happened, but I'm your brother, you can talk to me.」ってな感じでトラヴィスに話しかけてるんです。訳すと、「どんなトラブルなのか僕には分からないし、何が起こったのか僕には分からない、でも僕は君の弟だよ。話すことができるよ。」ってな感じで言ってるように聞こえます。「I'm your brother 僕は君の弟だよ you can talk to me 話すことができるよ」ですよ。弟ウォルトは出来た人です。

 

You can talk!
話すことができるだろ!

(25分頃から)
しかし、その翌日、ガソリンスタンドで弟ウォルトは

「黙ってられると疲れる」
「何か言えよ」

↑You can talkと強めに言ってます
これは「!」マークを付けざるを得ないでしょう。半角の!マークでは怒りが伝わらないでしょうから全角の!マーク付けちゃいます。よって文章化すると「You can talk!話すことができるだろ!」です。

昨日あんなに優しかった弟ウォルトですが、さすがに堪忍袋の緒が切れたのか今日は明らかにちょっと怒ってます。そりゃそうですよね。出会ってから一言も発してないんです。何か話してあげて下さいトラヴィスさん。

↓ ↓ ↓
それで、さすがにマズいと思ったのかトラヴィスは話し出すんです。

↓ ↓ ↓
それでトラヴスさん、話し出すとこれまたよく喋るんです。

 

I'm not gonna leave you
あなたを置いていかないよ

(27分頃から)
二人はロサンゼルス行きの飛行機に搭乗。Muse air N934MCの機体が離陸に向かうところで、トラヴィスが「降ろしてくれ」って言うんです。それで客室乗務員に怒られながら弟ウォルトは「I'm sorry」を繰り返して、トラヴィスを追って機体を降りるんです。

降りた直後の二人の会話なんですが

トラヴィス:「僕を置いていく?」

↑Are you gonna leave me?

弟ウォルト:「置いてかないよ」

↑No, I'm not gonna leave you.

もう神です。ピッコロです。実際にトラヴィスの子供を育てているし、弟ウォルトはピッコロ確定です。

離陸直前の飛行機から降りるんですよ。客室乗務員に怒られ、他の乗客からは恐らく白い目で見られながら飛行機を降りていくんです。恥ずかしさと怒りで、ナウシカのオームで言ったら赤い目になっているときにですよ、「置いてく?」って聞かれて「置いていかない」って言えますか?凡人だったら「置いてく?」って聞かれたら「置いてく!」って言っちゃうシーンです。それなのに弟ウォルトは「I'm not gonna leave you (兄さんを)置いていかないよ」って、かっこ良すぎます。

そして極めつけは、その後のレンタカー屋での件。
「あの車でなきゃダメだ」って言い出すトラヴィスさん。飛行機に乗る前に返却したレンタカー、そのさっきまで乗っていた車に再び乗るつもりなんです。あの車でなきゃダメな訳ないじゃないですか!。もう絶対「ジーザス」って言っちゃうようなシーンです。とにかく、一度言い出したら聞かないんです。

でも弟ウォルトは奇特な人なんです。粘って粘って交渉してさっきまで乗っていた車のナンバーを聞き出すんです。

そして667DJPナンバーの車で丸2日かけてロサンゼルスの弟ウォルトの家に向かう訳です。日本人も我慢強いと言いますが、弟ウォルトは相当我慢強いですよ、もうここまでくると。

 

half a boy's life
少年の人生の半分

(35分頃から)
トラヴィスの息子ハンターはもうすぐ8歳。トラヴィスがいなくなり、約4年の間、ロサンゼルスにある弟夫婦の家で暮らしている訳なんですが、トラヴィスと弟ウォルトがレンタカーでロサンゼルスへ向かう道中、踏切待ちしてる時の会話です。

トラヴィス:「4年は長い間か?」
弟ウォルト:「子供には長いよ」
弟ウォルト:「人生の半分だ」
トラヴィス:「人生の半分か」

↑half a boy's lifeって言ってます。はっきりと、分かりやすく、自分自身に言い聞かせるように、言葉の意味をしっかり噛みしめるかのように。

もうすぐ8歳のハンター。トラヴィスが4年失踪してたら、ハンターにとっては人生の半分、父親がいないんです。人生の半分ですよ!。弟ウォルトはそのことを優しくトラヴィスに諭すんです。「4年は長いか?」の質問に、「(8歳の)子供には長いよ。(だって)人生の半分だ。」なんて言葉がさらっとでてくる。弟ウォルトは非凡な男です。凡人とは格が違います!

 

Coffee Break/コーヒーブレーク

 

我が家で活躍しているネスプレッソ。映画を見ながら美味しいコーヒーが楽しめます。

『パリ、テキサス』と『恋する惑星』

(43分12秒頃から)赤い靴をローアングルで撮影してるシーンですが、同じようなアングルで白い靴を撮影してるシーンが『恋する惑星』(dTVで見られます。35分16秒頃から)にもありますが、『パリ、テキサス』へのオマージュでしょうか?『パリ、テキサス』ではベッドサイド(ソファーサイド?)に置いてある赤い靴を持ち去って磨く、『恋する惑星』では白い靴を磨いてベッドサイドに置く。心憎い演出です。

『パリ、テキサス』と『汚れた血』

(71分頃から)トラヴィスが街を歩き回ってる時、高速道路に架かる橋の上?を歩くんですが、トラヴィスの後ろにある欄干(縦格子)がモアレのような効果を生み出していて面白いです。ずっと詩的な言葉をしゃべり続ける男。高速道路を流れていく車。そして、歩いている間に最初は暗かった夜がほんの少しずつ明けていく。なんて素敵なんでしょう!『汚れた血』でデヴィッド・ボウイのモダンラヴがラジオから流れるシーンでも、これまた背景がとにかく動いて、動いて、流れていくんですが、『パリ、テキサス』では右から左にスクロール、『汚れた血』では左から右にスクロール。どちらも好きなシーンです。

そして、トラヴィスが歩いている時に聞こえてくるセリフにも引きこまれてしまいます。

「安全地帯などない」

↑There will be no safety zone

「安楽の地と信じた所には 安楽でないものが待っている」

↑これはウォーキングデッドの世界ですね。なんとなく分かります。ブー子が『ウォーキングデッド シーズン5』を見てるのを時々横目で見てましたから。とにかくセーフティゾーン(安全地帯)などないんです。そこはノーセーフティゾーンなんです。

 

8ミリフィルム

(52分頃から)
SEASONS GREETINGSと書かれた装飾の下を車で走る。丁寧に丁寧に作られたことが感じられるフィルム。優しい音楽も流れています。必見です。
ハンターはこの8ミリフィルムは前にも見たよ、なんて言っていたのに、このフィルムを見終わった後、トラヴィスに「Good night, dad おやすみなさい、パパ」って言うんです(二人の距離が縮まった瞬間です)。

 

学校から歩いて帰るシーン

(60分頃から)
普段はアンの車で登下校しているハンターですが、一度トラヴィスがハンターの学校まで歩いて迎えに行って、一緒に歩いて帰ろうとした時があって、その時は、歩いて帰るなんて嫌だったハンターは友達の車に乗せてもらって、トラヴィスを置いて帰っちゃったんです。でも8ミリフィルムを見た後、トラヴィスが再び歩いて迎えに来た時は、道路を挟んで、お互いを意識しながら一緒に歩いて帰るんです。一言も喋ってませんが、心が通じあっていることが良く分かる名シーンです。こういう風に表現するんですね。頭が下がります。(『秋刀魚の味』(dTVで見られます。1時間38分頃から)でも娘が嫁ぐとき、「お父さん」と言う娘に、「あぁ 分かってる 分かってる」って言って娘の言葉を遮るお父さんですが、こちらもまた、二人の気持ちや関係性が良く分かる素敵なシーンです。)

 

家族の写真

(63分頃から)
トラヴィスが見ている家族写真。写真に写っている人物が誰なのかを聞くハンター。写真を指差しながら答えるトラヴィス。「That's my dad これが僕の父親 and your grand father 君のおじいちゃんだょ」「This is my mam これが僕の母親 your ground mother 君のおばあちゃんだょ」って、自分の立場とハンターの立場で説明してあげてるんです。ルノワールが描く絵のように、こういう日常の何気ない優しさを表現してるところにこの映画の素晴らしさを感じます。見ていて心地よいシーンです。

このシーンでハンターは「パパはどこかで話したり 歩いてると感じてた」「ママのことも そう感じる」って、記憶の中の母親の話をしているんですが、このあたりにトラヴィスがハンターをジェーンにあわせた、あのような映画のラストシーンを導いた所以になっているんでしょうか。

 

以上でコーヒーブレーク終わりです。
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You tell me what happened
何があったのか教えろよ

(73分頃から)
高所で看板取付のチェックをしてる仕事中の弟ウォルト。その横で、景色を眺めながら話すトラヴィス。ひと通り喋って、下におりようと言ったトラヴィスに対して、弟ウォルトがついに怒り心頭に発します。

トラヴィス:「下りようか」
弟ウォルト:「いやだ」「いい加減にしろ!」
弟ウォルト:「何があったんだか 言えよ」

↑You tell me what happened, Travis!
相当怒ってます。知りたいんですよねトラヴィスとジェーンの間に何があったのか。「I'm your brother 僕は君の弟だよ you can talk to me 話すことができるよ」の頃から、ずっと気になっていたんです。この後「ファッキン ミステリー!」、終いには看板が下りてくる音がうるさかったのか「シット!」って、汚い言葉のオンパレードで超怒っちゃってます!

それで、ジェーンと何があったか教えろって再び言われてるのに、なんとこのタイミングでトラヴィスは無心するんです!このタイミングでですよ? 言えませんよね? 、、、非凡な弟の兄もやはり非凡だった!

トラヴィス:「金とクレジットカードが要るんだが」

↑Money and credit cardに対して、

弟ウォルト「分かった 使えよ」

↑All right, sure!
↑ ↑ ↑
キター、神対応です。

この後はみなさんご存じの展開です。

 

Résumé/レジュメ

弟ウォルト。テキサスまで迎えに行って、トラヴィスの病院代を払って、ロサンゼルスの自宅へは飛行機で帰ろうとしたのに、なぜか車で丸2日のドライブ。その後はトラヴィスに車まで買ってあげて、ジェーンを探す費用まで出してあげたのに、どうしても聞きたかった、トラヴィスとジェーンの間に何があったのかは聞けないまま、、、我が子のように育てていたハンターも帰ってこない、、、って、もう無茶苦茶です。でも、でも、それでも、物語は破綻してないように見えるんです。奇跡の映画です。『パリ、テキサス』間違いなく名作です。

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ブー太